TAM、SAM、SOMの意味と計算方法【市場規模を把握する】
TAM、SAM、SOM。これらはすべて市場規模を評価する際に用いられる指標ですが、具体的に何を意味し、どのように計算するのでしょうか。
本記事では、これらの指標がビジネス戦略にどのように役立つのかを、実例とともに分かりやすく解説します。
市場の真のポテンシャルを解明し、競合との差別化を図るための第一歩を踏み出しましょう。
TAM、SAM、SOMとは、その違い
スタートアップやビジネスの新規事業を立ち上げる際には、市場の潜在的な規模を把握することが非常に重要です。
そのために用いられるのが、TAM、SAM、SOMという三つの指標です。
これらの指標を理解し、適切に計算することで、事業の潜在的な成功を見極めることが可能になります。
ここでは、それぞれの指標について詳しく解説し、さらに通常の指標として知られるPAMについても触れていきます。
TAM (Total Addressable Market)
TAM(Total Addressable Market)は、製品やサービスが市場に受け入れられる最大の市場規模を指します。
これは製品が投入可能な全体市場の規模であり、企業が理想的な状況下で到達可能な市場の広がりを示しています。
例えば、高齢者向けの健康管理アプリが対象とする市場規模は、その国の高齢者人口全体(例: 3000万人)に基づく計算になります。
SAM (Serviceable Available Market)
SAM(Serviceable Available Market)は、TAMの中で自社の製品やサービスが実際に提供可能な市場の範囲を示します。
この計算は地理的な制限や製品のタイプによって影響を受けることが多いです。
例えば、上記の健康管理アプリが特定の高齢者向け施設や地域にのみ提供される場合、その地域の高齢者人口(例: 500万人)を対象として計算されます。
SOM (Serviceable Obtainable Market)
3つ目のSOM(Serviceable Obtainable Market)は、SAMの中で中期的にアプローチ可能な市場規模を表します。
これはマーケティング戦略や競合の状況を考慮した上で、実際に企業が目標とする市場の規模です。
例として、もし健康管理アプリが市場における競合他社との競争を考慮し、初年度に目指す高齢者の人数が300万人であれば、その数がSOMとして設定されます。
PAM (Potential Available Market)
PAM(Potential Available Market)は、特定の新製品や技術が市場に与えうる影響を考慮した、潜在的に利用可能な市場の規模を指します。
これは新しい市場機会を発見するために考慮されることが多く、イノベーションが市場をどれだけ拡大可能かを示す指標です。
例えば、ブロックチェーンを利用したデータ管理システムが、従来のデータ管理市場に加えて新たな顧客層を開拓する可能性を考慮すると、その潜在的な市場は従来の市場規模を大きく超えることがあります。
これらの指標を適切に利用し、事業計画に反映させることで、スタートアップは市場の可能性を最大限に活かし、成長戦略を明確にすることができます。
TAM、SAM、SOMはどんな場面で使われるのか
市場の潜在的な規模を示すTAM(Total Addressable Market)、SAM(Serviceable Available Market)、SOM(Serviceable Obtainable Market)は、ビジネスの様々なフェーズやシナリオで重要な役割を果たします。
ここでは、これらの指標が具体的にどのような場面で使用されるのか、特に重要となるシナリオについて詳しく掘り下げて解説します。
新規事業の立ち上げ
新規事業を立ち上げる際には、市場の潜在的な大きさと自社製品の市場適合性を評価することが不可欠です。
TAM, SAM, SOMはこの評価を行う上で基本となる指標です。
TAM
新規事業のアイデアが対象とする全体市場の規模を示します。
例えば、オーガニック食品市場に新規事業を計画している企業は、全オーガニック食品消費者をそのTAMと見なします。
SAM
企業が実際にアプローチ可能な市場の範囲です。
オーガニック食品市場であれば、特定の地域(例:アメリカ合衆国、ヨーロッパ)やチャネル(例:オンライン販売、小売店舗)をターゲットにした市場の規模をSAMとして計算します。
SOM
短期、もしくは中期的に獲得を目指す市場規模で、実際に獲得可能と見込まれる顧客層を指します。
オーガニック食品市場におけるSAMから更に市場シェアや競合の存在を考慮した実際の目標顧客数となります。
投資家が投資を行う時
投資家が新しい事業やスタートアップに投資する際、TAM, SAM, SOMは投資対象の市場ポテンシャルを評価するのに役立ちます。
これらの数値は、事業が将来拡大可能な市場の大きさとその事業の成長見込みを示すため、投資判断の重要な基準となります。
TAM
投資家はこの指標を使って、事業が成長し続ける潜在能力を評価します。
市場全体が大きければ大きいほど、高い収益を期待できると見なされます。
SAM
投資家にとって、事業が実際にサービスを提供できる市場のサイズを理解することが重要です。
この市場の大きさが、初期の収益見込みを左右します。
SOM
特に重要視されるのがこの指標で、短期、もしくは中期的に事業が実際に獲得可能な市場規模を示します。
投資家はSOMを見て、初期段階での事業の成長と収益性を評価します。
マーケティング戦略の策定時
企業がマーケティング戦略を策定する際にも、TAM, SAM, SOMは重要な役割を担います。
これらの指標に基づき、マーケティングのリソース配分やプロモーション活動の計画が行われます。
TAM
マーケティング活動の最大限のリーチ可能性を示します。
この規模を知ることで、市場全体に対するアプローチの可能性を見極めることができます。
SAM
実際にマーケティング活動を行う市場の範囲を特定します。
ターゲット市場が明確になることで、より効果的なマーケティング戦略を展開することが可能となります。
SOM
期待される市場の獲得規模を示し、マーケティング投資の回収期間やROI(投資収益率)を計算する際の基準となります。
これらの指標を適切に使用することで、事業の立ち上げからマーケティング戦略の策定、投資判断に至るまで、ビジネスの各ステージで適切な判断を下すことが可能になります。
市場規模の正確な評価は、事業の成功に直結するため、TAM, SAM, SOMの理解と活用は企業にとって非常に価値のあるスキルセットと言えるでしょう。
TAM、SAM、SOMの計算方法と具体例
新規事業を立ち上げる際や事業拡大を計画する際に、潜在的な市場の大きさを把握するTAM(Total Addressable Market)、サービス提供が可能な市場の範囲を示すSAM(Serviceable Available Market)、実際に取り込むことが見込まれる市場の規模を表すSOM(Serviceable Obtainable Market)の計算は非常に重要です。
ここでは、具体的な企業のサービスを例にこれらの指標の計算方法と事例を解説します。
TAMの計算方法と事例
計算方法
TAMを計算する基本的な公式は以下の通りです。
TAM=全体の対象顧客数×一人当たりの平均年間消費
この計算には市場調査データや業界レポートが必要となります。
事例
企業Aが開発した健康食品の市場規模を評価する場合、TAMを計算するためには全国の健康志向の消費者の人数と、健康食品に対する一人当たりの平均年間消費額を調査するとします。
・対象顧客数:日本全国で健康志向の消費者が約5000万人と推測される。
・一人当たりの平均消費:年間2万円とします。
したがって、TAMは以下のように計算できます:
TAM=50,000,000人×20,000円=1,000,000,000,000円(1兆円)
この数値は、理論上この健康食品が受け入れられた場合に到達可能な市場の総額を示しています。
SAMの計算方法と事例
計算方法
SAMはTAMから、実際に自社の製品/サービスがアプローチ可能な市場セグメントを絞り込んで計算します。
SAM=TAM×サービス提供可能な市場セグメントの割合
事例
企業Aが全国ではなく、主に都市部の消費者(TAMの40%と仮定)に焦点を当てて製品を販売する場合、SAMは以下のようになります。
SAM=1,000,000,000,000円×0.4=400,000,000,000円(4000億円)
これは、都市部の市場に限定した場合のサービス提供可能な市場の規模を示します。
SOMの計算方法と事例
計算方法
SOMはSAMからさらに市場の競争状況や自社の市場浸透率を考慮して計算します。
SOM=SAM×市場浸透率
事例
もし企業Aが初年度で都市部市場の5%のシェアを獲得できると見込まれる場合、SOMは以下のようになります。
SOM=400,000,000,000円×0.05=20,000,000,000円(200億円)
この計算により、初年度に実際に獲得可能な市場規模が見積もられ、事業計画の具体性が増します。
このSOMの数値は、投資対象としての魅力を評価する際や、資源配分を決定する際の重要な指標となります。
このように、TAM, SAM, SOMは市場の潜在的な規模と事業の可能性を評価するための非常に重要なツールです。
それぞれの計算には明確な理解と適切な市場データが必要となりますが、これらの指標を適切に利用することで、事業を軌道に乗せられる確率を高めることができます。
TAM、SAM、SOMの計算に対するアプローチ方法
市場規模の推定に使われるTAM(Total Addressable Market:全体市場規模)、SAM(Serviceable Available Market:サービス提供可能市場規模)、SOM(Serviceable Obtainable Market:獲得可能市場規模)を計算する際には、主に「トップダウンアプローチ」、「ボトムアップアプローチ」、そして「フェルミ推定」という三つの方法が用いられます。
各アプローチ方法には特徴があり、適切なシナリオで利用することが重要です。
ここでは、それぞれの方法と注意点について解説します。
トップダウンアプローチ
アプローチ方法
トップダウンアプローチは、大規模な市場データから始めて、徐々に特定の市場セグメントに絞り込んでいく方法です。
このアプローチでは、国や地域全体の経済データ、業界レポート、政府統計などの公開情報を基に市場規模を推定します。
計算例
健康食品市場を例にとると、全国の健康食品市場が1000億円とされている場合、企業が対象とする特定のニッチ市場、例えば「オーガニック非遺伝子組み換えビタミンサプリメント」市場は全体の10%、つまり100億円と推定されることがあります。
注意点
- 市場の過大評価のリスク:全体市場のデータに基づくため、実際のターゲット市場の規模を過大に評価する可能性があります。
- データの古さ:使用する市場データが最新でない場合、市場状況の変化を反映できないことがあります。
ボトムアップアプローチ
アプローチ方法
ボトムアップアプローチは、個々の顧客や販売単位から市場全体の規模を推定する方法です。
具体的には、製品の単価と潜在的な顧客数を掛け合わせて市場規模を計算します。
計算例
あるスタートアップが都市部に住む健康意識高い20代〜40代の女性をターゲットにしたフィットネスウェアを販売する場合、単品の価格が5000円、対象顧客層が100万人いると推定した場合、市場の潜在規模は5,000円 × 1,000,000人 = 50億円となります。
注意点
- 顧客数の過小評価のリスク:実際に市場に参入してみると想定顧客数が予測より多い場合、市場の機会を低く見積もってしまうことがあります。
- 単価の変動:市場の競争状況により単価が変動する可能性があり、それによって市場規模の推定が不正確になることがあります。
フェルミ推定
アプローチ方法
フェルミ推定は、利用可能な限りの情報を組み合わせて、推論により市場規模を推定する方法です。
このアプローチは、具体的なデータが少ない場合に有効で、複数の仮定と論理的思考を用いて推定を行います。
計算例
新しいカフェチェーンが市場進出を考えている場合、「一日にカフェを訪れる人が平均200人、一人当たりの平均消費が800円、年間営業日数が300日の場合、一店舗の年間売上は200人 × 800円 × 300日 = 48,000,000円と推定できます。複数店舗展開する場合はこれを店舗数で乗じます。
注意点
- 仮定の誤り:仮定が現実と大きく異なる場合、推定結果が現実と大きく乖離する可能性があります。
- 情報の不足:利用可能な情報が限られている場合、不確実性が増すため、推定には慎重さが求められます。
これらのアプローチ方法を適切に選択し、それぞれの注意点を考慮することで、TAM、SAM、SOMのより正確な計算が可能となり、事業戦略の精度を高めることができます。
市場規模の評価は、事業計画の根幹をなすため、各方法の特性を理解し、状況に応じて最適な方法を選択することが重要です。
TAM、SAM、SOMによって市場規模を正しく把握し新規事業を成功へ導く
TAM、SAM、SOMという三つの指標は、新規事業の市場潜在力を正確に評価し、事業戦略を練る上で不可欠です。
TAMで見出す全体市場の視野、SAMが示すサービス提供可能なセグメント、そしてSOMが明確にする短中期の市場獲得目標は、事業計画の具体性と実現可能性を大きく左右します。
これらの指標を基に、市場のニーズと自社の強みを慎重に分析し、資源を効率的に配分することで、新規事業を軌道に乗せていけるでしょう。
市場規模の正確な把握から始まるこのプロセスは、投資のリスクを減らし、事業の持続性を高めるポイントとなります。
新たな事業展開を考える際には、これらの市場規模評価指標の適用を忘れずに、堅実かつ戦略的なアプローチを心掛けてください。